逗子ストーカー殺人事件とは、度重なるストーカー被害のすえに、2012年11月6日に神奈川県逗子市で女性が殺害された殺人事件です。ストーカー被害が把握されていたにも関わらず事件を防止できなかったことが問題視されました。
2012年11月6日、神奈川県逗子市のアパート1階居間で当時33歳のフリーデザイナーの女性が刃物で刺殺され、犯人の東京都在住の元交際相手の当時40歳の男性が同じアパートの2階の出窓にひもをかけ、首吊り自殺しました。
2人は2004年頃から交際していましたが2年ほどで別れました。被害女性は2008年夏に結婚し逗子市に転居しましたが、元交際相手の加害男性には新しい姓や住所は隠していました。2010年4月頃に被害女性の結婚を知った加害男性から嫌がらせメールが届くようになりました。メールは次第にエスカレートし、2011年4月には「刺し殺す」などと被害女性を脅すメールが1日に80通から100通送りつけられたため、女性はその旨を警察に相談し、同年6月に脅迫罪容疑で加害男性が逮捕されます。同年9月に懲役1年・執行猶予3年の有罪判決が確定。同年7月にはストーカー規制法に基づく警告が出され、同年9月には被害女性の家に防犯カメラが設置されました。
2012年3月下旬から4月上旬にかけて、被害女性は計1089通に上る嫌がらせメールが加害男性から送りつけられました。メールには「結婚を約束したのに別の男と結婚した。契約不履行で慰謝料を払え」などと書かれていました。女性は警察に相談しますが、警察は違法行為に該当しないとして立件を見送りました。4月上旬以降はメールが届かなくなり、被害女性から警察に「静観したい」との申し出を受けましたが、自宅周辺で頻繁にパトロールを実施しました。
また加害男性は2011年6月の逮捕前及び同年9月の有罪判決後からYahoo!知恵袋で複数のアカウントを使って約400件にもわたって「被害女性の居住地域に絡む住所特定に関する質問」「パソコン・携帯電話の発信による個人情報の収集に関する質問」「刑法等の法律解釈に関する質問」「凶器に関する質問」等の質問をして(質問文自体は被害女性名や自分が殺人事件を起こす意思があることを伏せた上で、善意の人間による疑問提示という形を装っていました)、被害女性の住所を特定して殺人事件の準備のための情報を収集しようとしていたとみられています。事件直前の2012年11月に探偵事務所に被害女性の居場所を調べてほしいと依頼して、探偵事務所から所在確認の連絡を受けたことが判明しています。
嫌がらせが収まっていたこともあり被害女性は借りていた防犯カメラを返却しましたが、その直後の2012年11月6日に殺人事件が起こりました。
事件直前に付近のコンビニの防犯カメラに、段ボール箱を持ちながら買い物をする加害男性が映っていたことや被害女性の玄関先に持ってきた段ボール箱を放置していたことから、加害男性は被害女性や近隣住民に怪しまれないよう運送業者を装って犯行に及んだ可能性を指摘する報道もありました。加害男性は無施錠だった1階窓から侵入して犯行に及んだとみられています。同年12月28日に被疑者死亡として不起訴処分となりました。
加害男性は逮捕前の2010年12月までの段階で被害女性が逗子市在住であることを把握していた可能性が高いことが判明していますが、逮捕状執行の際に被害女性の結婚後の名字や正確な居住住所を知ったことで殺人事件につながった可能性があります。
ただし、この事件の教訓を受けて、後のストーカー事件において被害女性の名前を伏せて顔写真を添付した逮捕状を執行することで被害者の実名を伏せた事例がありました。その一方で刑事訴訟法第256条で「公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない」と規定されており、「被害者名も含めて審理の対象を特定するのは刑事訴訟法の基本原則であり、刑事訴追するにあたって被害者の実名を被疑者に完全に伏せることは被疑者の防御権の行使が制限される」という司法関係者・学者の意見もあり、起訴の段階では起訴状に被害者の実名を記載しないことで被害者の実名を被疑者に知らせないことについて被疑者の防御権という問題が浮上しています。
この問題が注目された後に別の類似事件において、起訴状で被害者について実名を伏せるために「携帯のメールアドレスが○○@○○〇〇だった女性」「旧姓表記の被害女性」「○○(量販店の店舗名)に勤務する××という名字の男性」で対応したケースもありましが、カタカナ表記という形で完全秘匿には至らない形で実名表記になったケースがあったり、強制わいせつ事件の被害児童の氏名を匿名にした起訴状に対して東京地裁が検察に対して修正を命じて「母親の実名と続柄」という形で母親が実名表記になったケースがあったり、法廷で被害者を匿名にした起訴状を朗読した後で被害者の顔写真を被告に示すケースなど試行錯誤が続いています。
事件当時は大阪府や秋田県など14府県では迷惑防止条例でメールの連続送信をつきまとい行為として禁止していましたが、加害男性が居住する東京都や被害女性が居住する神奈川県を含めた33都道県は条例に禁止規定がありませんでした。
2013年6月にメールの連続送信をつきまとい行為として禁止することを規定したストーカー規制法改正案が成立し、同規定については同年7月から施行されました。
2013年4月から、ストーカー事案などで保護観察付き執行猶予判決を受けた加害者について保護観察所と警察との間で順守事項や問題行動の情報共有を始めています。
ストーカー被害団体は「法律に触れないので何もできなかったという警察の対応には問題」として法律を超えて加害者に対して強力な対応すべきとする意見が出ましたが、その一方で弁護士から「ストーカーと称して、正当な権利行使を妨げたり、犯罪となるべきところをストーカーを装ったとして、逃げ隠れする弊害もありますから、そのような乱用を防止することも必要」としてストーカーを防止する国家権力の悪用を懸念する意見も出ています。
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